２０００年（平成１２年）後期

●前走900万クラスに降級した八雲特別で鼻差２着に惜敗したトラストミュウツー。惜しい内容ではあったが、それでも900万クラスでの実力上位を証明した一戦でもあった。もちろん今回こそは勝利を目指す。そして、トラストミュウツーが単勝2.0倍の１番人気に支持される。２番人気は、900万特別を勝ち上がった後、昇級緒戦の前走準オープン戦では７着だったノボマーチャンで単勝4.1倍。今回は降級戦となるが、900万勝ちがある実績は侮れない。３番人気は、前走３歳500万下戦を優勝しているロードスナイパーで単勝6.2倍。これまで全６戦して１番人気が４回という期待馬だが、古馬との初対戦で、しかも３ヵ月半の間隔が開いての昇級戦という条件は厳しくも感じられる。上のクラスでの活躍を期待されているトラストミュウツーだけに、これ以上900万クラスで足踏みはできない。今度こそ確実に勝利を決めてくれるはずだ。

　レースでは、人気のトラストミュウツーはスタートがいちばん拙く、ゆっくりと出て行って最後方から。まず、ギャラクシーウインとフェスティブシーンの２頭がムチを飛ばしながら出てきて、この２頭の激しい先頭争い。この争いから、ギャラクシーウインの方が先頭に出て１角へ。１〜２角で、先頭ギャラクシーウイン は２馬身のリード。２番手にはフェスティブシーンで、これに１馬身差でロードスナイパーが３番手。その半馬身外の４番手がストラテジーの態勢。向正面に入って、トラストミュウツー は、先頭まで８馬身差の最後方でじっくり脚を温存。向正面の中間では、先頭〜殿りまで６馬身と固まってくる。３角では、一団の馬群が更に凝縮されてきて、先頭〜殿りまでは４馬身の団子状態。このあたりから、大外を回ってトラストミュウツーがすーっと進出を開始。先頭はギャラクシーウインで、フェスティブシーンが終始２番手だが、この２番手争いにストラテジーが並んでくる。3分3厘で大外を一気にマクって行ったトラストミュウツーは、好位グループから一気に先頭にまで迫ろうという勢い。４角では、先頭ギャラクシーウインに、外から早くも馬体を併せて来るトラストミュウツーだが、トラストミュウツーは手綱を持ったままで早くも勝利を確信する手応え。その直後１馬身差でストラテジー，ノボマーチャンの３番手争い。直線入口からスパート態勢に入ったトラストミュウツーは、ここでスッと１馬身単独先頭に出て直線へ。

　直線に向くと、エンジンを全開させた先頭トラストミュウツーが、力の違いを見せつけるようにあっさり２馬身突き放して残り200ｍ。その脚色の力強さからも、この時点でトラストミュウツーが勝利を決定づける。 ギャラクシーウインが２番手で、３番手争いは、ストラテジーがノボマーチャンより僅かに出て単独３番手の態勢で、更にはギャラクシーウインをかわしにかかってストラテジーが単独２番手 となり、果たしてタマモクロス産駒の１，２着なるか。ここから２番手争いの各馬はどの馬も同じような脚色になって 、トラストミュウツーに迫る馬はない。 完全に２馬身抜け出していたトラストミュウツーは、ラスト100ｍをムチも使わず流す余裕を見せながら、１馬身半差を保って人気に応える楽勝のゴール。２着争いは差のない混戦の争いとなったが、ストラテジーが半馬身出て２着を確保し、タマモクロス産駒のワンツーを決めた。着差は１馬身半だったが、着差以上の力の違いを見せつけたトラストミュウツー。その勝ちっぷりからも、準オープンでも勝ち負けできる能力を持っていることは疑いようもなかった。鞍上の後藤騎手は、「 ゴチャつくと嫌がるところがあるから、抑えて外を回る競馬をさせた。流れは向いたし、仕掛けどころもうまくいった。ここでは力が上という感じですね。」とコメント。先々は重賞級の活躍を嘱望されているトラストミュウツーだけに、今回の勝利は単なる通過点。準オープンに昇級しても、当然勝ち負けの競馬を期待していいはずだ。

　レースでは、ニシノアポロンは後方からの競馬。序盤からやや速いペースでレースは進むが、先頭争いは内３番人気レオタイクーン，外シルクスパンカーの２頭。人気馬同士の競り合いとなり、直後の３番手にウインジュリアン。スピードモンスターは、先頭から３〜４馬身差の６番手で、前にライバルを見ながらの競馬。ニシノアポロンは、先頭まで１０馬身ほどの差がついている。３角では、レオタイクーンの方が単独先頭に出るが、これにぴったり取りついているシルクスパンカー。その後ろの３番手争いの内々にスピードモンスターが早くも押し上げる。中団以下はバラけてきて、ニシノアポロンも中団グループの集団から３〜４馬身置かれてしまって、この時点では惨敗を覚悟しなければならない状況になっている。３分３厘では、ニシノアポロンは先頭まで１５馬身近い差がついてしまっている。４角では、先頭はレオタイクーンだが、２番手シルクスパンカーがいつでもかわせる手応え。直後の３番手争いが、内スピードモンスター，外フォルテシチーの２頭。ニシノアポロンは依然後方のままで、先頭まで１２馬身ほどの差でとても届かない位置取りのまま直線へ。

　直線に向くと、シルクスパンカーが先頭レオタイクーンをかわしにかかる。３番手からスピードモンスターもスパートをかけようとするが、内々を回ったため前が壁になって一杯に追い出せない。一方、既に絶望的と思われていたニシノアポロンだが、直線に向いて追い出されるとエンジンに点火し、ここから徐々に末脚を加速させてくる。シルクスパンカーが単独先頭に抜け出したが、内から外に態勢を立て直したスピードモンスターがぐいぐい迫ってきて、ゴール前でシルクスパンカーを半馬身差し切って優勝。ニシノアポロンは、勝ち馬からは少し差があったものの、強烈な追い込みで前に襲いかかり、最後は５着争いにまで加わってくる。デルマルルド，イッキトーセン，ウインジュリアンの３頭接戦の５着争いに、最後の最後でニシノアポロンが猛然と突っ込んで接戦のゴール。しかしながら、５着のデルマルルドに惜しくも首差及ばず６着に。それでも、ニシノアポロンの上がり３Ｆ38.2秒は、出走メンバー中最速のもの。次に上がりタイムの速かった勝ち馬のスピードモンスターの38.9秒を0.7秒も上回るものだった。初出走ということでエンジンがなかなか掛からなかったのが痛かったが、最後の瞬発力はこの馬の潜在能力を感じさせるものだった。

　しかしながら、ニシノアポロンは続く中山の未勝利戦で、もうひとつ伸びを欠いて７着に終わり、これを最後に上山競馬に移籍することに。上山移籍緒戦の翌年４月のＣ級戦では、８ヶ月ぶりの実戦となったが、ニシノカイドウに６馬身差をつけて嬉しい初勝利を飾る。この時２着のニシノカイドウは、この年７月から９連勝の活躍をすることになる。ニシノアポロンは、続く山寺特別で１番人気に支持されたものの、ニシノツイストに１馬身半差の２着。このニシノツイストも、７月からは９戦して８勝２着１回の活躍をする。そしてニシノアポロンは、続くＣ級戦で順当に２勝目を挙げ、これから更なる活躍が期待されることとなる。しかしながら、その後は９ヶ月の長期休養を余儀なくされ、５歳５月復帰戦となったＣ級戦で、ただ一頭４秒以上離される最下位に終わり、もう競走馬として続けていくのは無理な状態で、結局５歳春までに通算僅か６戦の競走生活に別れを告げた。福島県で乗馬となったニシノアポロンは、アポロンＮの名で徐々に乗馬としての素質を開花させる。そして２００９年、障害馬術の最高峰の全日本障害馬術大会の大障害選手権競技の決勝に出場。ホライゾンスポーツホースの菅野仁選手とのコンビで６位に入る活躍を見せる。決勝に出ることができた元競走馬は、このニシノアポロンただ一頭。その中でしかも上位に食い込んで、最優秀内国産馬として表彰されたとのこと。馬術競技で元競走馬の中で頂点に立ったことは、本当にこれほど嬉しいことはない。